■9

 ざっくざっくざっく。

 一同は無言で降りて行く。
 それは着た道を降りて行くだけだが、登山家は下山する時の方が遭難率が高いのだと言う。
 気のゆるみが洒落にならない事態を引き起こすのだそうだ。
 まして、今、自分達は巨大なる監視者に狙われているのである。
 そう考えるだけで、アリアは身も凍る様な思いがした。
 だがしかし。いつまでたってもフロストは攻撃を仕掛けて来なかった。
 ざっくざっくざっく。

 「(ジン)」
 「(ああ。アリア殿も気付いたでござるか。あのフロスト、こちらに危害を加える気は無いようでござるな)」
 それどころか。まるで声をかけたいけど逃げられてしまうのが分かっているから声をかけられないでいる様だ。
 そんなもどかしさが感じられた。
 「(どういう事?)」
 「(機嫌が良いのかも)」
 ざっくざっくざっく。

 やがて、下方にオルウェンの村の灯が見えて来た。もちろん、まだ距離が有る。
 遠いが、しかし灯が見えたのだ。それだけでも安心する。ああ、早く帰りたい。




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