■6

 で。
 ざっくざっく。

 足に装着したかんじきで雪を踏みしめ、前へ前へ。
 一面白銀の世界を進む、アリア達冒険者。
 ダレイド、ライト、アリア、ジン、オードの順に隊列を組み、一歩一歩、ヒララギ山を登って行く。
 だが寒い。防寒衣を身につけていても寒いものは寒いのである。
 その寒さを紛らわせようと、会話を試みるライト。
 「ダレイドさん」
 「はい、何でしょうか?」
 ざっくざっくざっく。

 「チンピラに言ってましたよね。『お前らではフロストは倒せん』って」
 「ええ。だってそうでしょう。彼らの実力ではね・・・」
 ざっくざっくざっくざっく。

 「フロストと、戦うつもりなのですか」
 「障害となれば、いたしかたありません。あくまで、そうなった場合、戦うと言ったまでです。もっとも、その際は冒険者の皆さんの出番ですがね。・・・私も微力ながらアシスト位はするつもりです」
 ざっくざっくざっくざっくざっく。

 「分かりました。でも戦闘を避けられるなら、それにこした事はありません」
 「おや、皆さん方は博愛思想の持ち主なのですか。随分と平和主義者なのですね。もっと好戦的な方々かと思っていましたよ」
 アリア達は、依頼人ダレイドの言葉に刺々しいものを感じた。
 「私には奴が許せません。私の父はフロストに殺されたのです!」
 「ええっ?」
 「あれは一年前の事です。私の父は、雪山に薬草を採りに行った。そして、帰ってきた時には瀕死の重症を負っていたのです」
 「私はその場に居合わせませんでしたが、聞いた話によれば、父は倒れる前にこう言ったそうです。私と妹の名前を呼んだ後『フロスト』と叫んだと!」
 怒気をはらむ言葉というのは、こういうものなのだろう。

 「それは・・・ご愁傷様です」
 「いえ、過ぎた事です。でも機会があれば敵は打ちたい。そう思ってきました。ただ、私にはその力はない」
 「だから冒険者を雇った、という訳ですか」
 「・・・・・・・・・・・・・・」
 ダレイドは、薬草を手に入れるまでに、あるいは手に入れた後で、必ずフロストが障害になって来ると考えているらしい。
 「オード、フロストの戦闘能力はどの程度なんだ?」とライト。唇が紫色になっている。
 「そうでやんすね。大きな身体に似合わず、敏捷な動きを見せる筈でやんす。それに雪山はフロストのホームグラウンド。加えて我々パーティは、慣れない雪上行軍を強いられている。戦うならば、かなりきつい戦闘を覚悟しなければならないでやんすね」
 「そうか」

 この依頼は、あくまで薬草レドシラを採取の護衛に過ぎない。
 しかし、ダレイドは機会があれば、冒険者達にフロストを殺せと命ずるのだろう。
 その時、冒険者達はどう動けば良いのか?
 出来れば、あまり出会いたくないものだが・・・。



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