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 「はじめまして。私が依頼人のダレイドです」
 緑色のターバンを頭に巻き、腰に鉈を差した若者がそう名乗った。端正な顔立ちで、やぶにらみの目をした男だった。
 「はじめまして、ウォーロックのライトと申します」
 「ウィッチのアリアです」
 「サムライのジンでござる」
 「オードでやんす」
 「ライトさん、アリアさん、ジンさん、オードさんですね。よろしくお願いします」

 そして依頼についての話となった。
 「私達は代々薬草を扱い、癒し手として活躍してきました。私も父より薬草の見分け方を伝授されています」と区切ってから続けるダレイド。
 「皆さんは、レドシラという薬草をご存知ですか?」
 「いいえ。・・・それが貼紙にあった幻の薬草なんですか?」
 「はい。今、そのレドシラを、私は必要としています。妹の、レベッカの病気を救うには、特効薬であるレドシラが要るのです。この植物はとても珍しく、世界でもこのヒララギ山でしか群生が確認されていません」
 「なるほど。事情は分かりました。しかし、その植物を求めてヒララギ山に登るのは良いとしても、植わっている場所を探すのは困難では?」とライト。
 「大丈夫です。植わっている場所は分かっているのです」
 「では、何故我々の様な冒険者をお雇いになろうと考えたのですか? 失礼ですが、今は熊も冬眠している様な季節<。植わっている場所が分かっているのならば、装備さえきっちりしたものが手に入れば、特に脅威は無いと思うのですが」  「それが、そうもいかないのです」
 「と、言いますと?」
 「狼が出るという噂もあります。それに・・・」
 言葉を区切り、続けるダレイド。
 「皆さんは、フロスト・ジャイアントというのをお聞きになった事は?」
 「フロスト・ジャイアント?」
 「フロスト・ジャイアントって?」
 「何なのでござる」一斉に視線がオードに向かう。
 「フロスト・ジャイアント、でやんすか」その期待に答えるオード。解説を始める。
 (このパンプキンヘッドは『モンスター事典』の異名を持つ程に博識なのだ!)

 フロスト・ジャイアント(通称フロスト)とは、雪山の洞窟に住む亜人。長い体毛で被われた巨大な身体の持ち主。雪原や水場の近くで目撃例がある。高い知能を持ち、人間とも身振り手振りで意思疎通を計る事ができるという。

 「出るのですよ。このヒララギ山にもそいつがね」
 依頼人の目が、ギラリと危険な風に光った。
 アリアはそれを見てぞっとした。それは深い憎悪から来るものだったからだ。
 しかし一応依頼人の依頼は正当なものである様だったので、一同は依頼を引き受ける契約を結んだ。  「フロストと鉢合わせする確率はかなり高いのですか?」
 「ええ。おそらく出会ってしまうでしょうね。だから、私がレドシラを必要としていると知った村のチンピラ達は、自分達を雇えと言ってきた」
 「何故雇わなかったのです?」
 「彼らは私の窮地を知って、莫大な額をふっかけてきたんです。貧乏な私には700spがやっと。それに・・・彼らでは・・・」
 「?」
 「何でもありません。とにかく、これからすぐ出かけますので、準備をして下さい」

 と、その時。部屋の奥の戸を開けて、誰かが出てきた。
 パジャマ姿の女の子だ。色が少し薄いが、ダレイドと同じ様な色の髪の毛をしている。おそらく、先ほど話に上ったダレイドの妹、レベッカであろう。顔色は青白く、素人目でも具合が悪そうなのが見て取れる。現に彼女、どこかふらついている。
 「お客様ね・・・その格好、冒険者さん達?」
 「レベッカ! お前、まだ寝てなきゃ駄目だろ。これ以上病状が悪くなったらどうするんだ!」
 「ごめん、お兄ちゃん。うん、すぐまた戻るよ」
 「よし。なら良い。お前の病気、もうすぐ治してやるからな。まぁ、あともうちょっとの辛抱だ」
 「それって、ヒララギ山に登ってレドシラを摘んでくるって事?」
 「そうだ。何、お兄ちゃん一人で行く訳じゃない。こうして冒険者の人達も護衛として雇った。心配はいらないさ。さ、早く寝なさい」
 「うん・・・どうしても行くって言うんなら、私には止められないけれど、これだけは覚えておいて欲しいの。フロストを、信じてあげて。彼に手を出さないで」
そう言うと、レベッカは彼女の部屋に戻って行った。
 「・・・フロストを、信じる?」その言葉の意味が分からず、疑問符を浮かべるアリア。
 「忘れてください、妹は熱でうなされていて、本調子じゃない。それにあの子は何も分かっちゃいないんですよ。フロストってのは、凶暴で残忍で危険な野獣だっていうのに!」
 「・・・・・・・・・・・・・」



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